「安全と共生」を基本理念として平成16年4月に本学大学院工学研究科博士前期課程に独立専攻として開設した「原子力・エネルギー安全工学専攻」が今年10周年を迎えました。これを記念した報告会が3月1日に開かれ、大学、行政、研究機関、電力関係など各界から約110名が参加し、原子力研究・教育の将来像を展望しました。
来賓祝辞では、附属国際原子力工学研究所顧問の木村逸郎京都大学名誉教授が「原発や核燃料施設の現場でしっかりと安全確保を担って行くぞ!という人材を育成することが最も重要。東京や大阪の無責任で抽象的な議論でなく、立地県福井ならばこその教育・研究の力を示してください。研究所と一致協力し、地元から信頼される存在になってください」と激励。続く講演では、構想から設置に至る時期に学長を務めた児嶋眞平名誉教授が専攻誕生までの経緯を述べ、各地の大学が「原子力」という名称を捨てる中、「『原子力』はどうしても必要だった。しかし、高速増殖炉もんじゅの事故があり『安全』を入れた。学生の就職も考慮し『・エネルギー』を付けた」と命名秘話を披露。「やがて逆風が収まり、信頼回復の時がくる。関係機関との連携協力を強め、人材育成、安全工学の重要拠点に発展を期待します」とエールを送りました。
続いて、専攻長の金邉忠教授が10年の歩みを振り返り、東京電力福島第1原発の事故後も原子力分野の企業、行政機関の募集は増加しているとして「電力・重工企業への卒業生の就職受け入れは定着、安定している。専門教育を受けた人材の必要性はむしろ高まっている。福島事故の影響を受けているとは思えない」と説明しました。
最後に、修了生と在学生7人が思い出や近況を報告。2006年修了生の柴田健太一さんは、日本原電から東電に出向して福島第1原発の安定化や固体廃棄物管理を担当している現況を紹介し「(在学中は)専門外の分野にも興味を持ち、アンテナを多く立てる大切さを学べた」と謝辞を述べました。同じく06年に修了した日本原子力研究開発機構の諸橋裕子さんは「オールラウンドなエンジニア、タフな人材に育って下さい」と後輩たちを励ましていました。
原子力・エネルギー安全工学専攻では、これからも多くの原子力施設が立地する福井県にある大学として、安全性の確保、共生社会システムの模索、電力ネットワークの安定、研究成果の技術移転による地域産業の活性化など、諸課題に関する実践・多面的な教育・研究を行います。