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国策の行方「本気になれぬ技術開発」(2011.8.10)

2011年8月10日 日刊県民福井新聞

「核燃料に含まれるウラン235は、中性子を取り込むと原子核が分裂し…」。高校生が原子力を学ぶ。そんな姿が将来、授業風景の一コマになるかもしれない。
小浜市の若狭高校が2学期以降、原子力を中心としたエネルギー学習を始める。原子力に関わる科学者を育てることは、国内最多の原子力発電所を抱える福井県の夢だった。
「着実に前進している」。高校生が原子力を学ぶための取り組みが動きだすことに、若狭湾エネルギー研究センター(敦賀市)の来場克美専務理事(63)は大きな期待をかける。
原子力専門の技術系職員として県に入庁して以来、37年間、1貫として県内の原発を見つめてきた。
「優秀な人材の育成は、原子力の安全を高める」。来場専務はそう確信する。県はエネルギー研究開発拠点化計画を策定し、育成環境を整備。国も原発推進策の1つに人材育成の強化を掲げた。
「まさにこれから」(来場専務)のときの「フクシマ」だった。
原発、電力事業者、国への不信は右肩上がり。推進側はぼうぜん自失で、原子力行政はさまよう。管直人首相は「脱原発」を口にし、県の拠点化計画に〝負の波″が押し寄せてきている。
「このまま原発の推進がなくなったら、内定の取り消しとかあるのかな」。脱原発の動きに、福井大大学院博士2年、原子力・エネルギー安全工学専攻の岩崎将大さん(24)は、先の見通せない現状に不安を募らせる。
原子力関連企業への就職を希望し、今春から就職活動に励んだ。3月11日は、大学院内の研究室で揺れを感じた。テレビに映る福島第一原発は日に日に状況が悪化していく。それでも「原子力を支えたい。安全な原発を造りたい」と願う気持ちは揺るがなかった。
思いを実らせ、電力事業者から今夏、内定を受けた。ただ、心の底からなぜか喜べない。脱原発が進めば、状況次第では夢見た職場はいつしか消えてしまうかもしれない。将来を心配する母親には「大丈夫だよ」としか言えなかった。
「将来にいかされることのない技術開発に誰が本気になれるものか」。福井大附属国際原子力工学研究所(福井市)で後進の指導にあたる竹田敏一所長(65)は揺れ動く国の姿に怒りを隠さない。
福島の事故後、研究所は原子力防災・危機管理分野を新設することを決めた。今後の重要な研究課題になるはずだが、竹田所長は「『原子力を学んでる』。学生たちが胸を張ってそう言えないことが何よりも苦しい」と表情を曇らせた。

│ 2011年8月10日 │
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