2011年9月5日 福井新聞
過去の文献に残る大津波を科学的に検証しようと、県内の歴史学や地震学、海岸工学などの研究者6人が集まり、共同研究をスタートさせた。集落を全滅させるほどの大津波を引き起こす可能性がある海底断層を選びシミュレーションする。伝承のような津波が本当に起こりうるかを検討し、本県の防災を考える資料としたい考えだ。
メンバーは、歴史分野から敦賀短大の外岡慎一郎教授(日本中世史)、同短大非常勤講師の金田久璋さん(民俗学)、福井市越廼地区の津波伝承に詳しい同市社会教育指導員の前阪良晴さん。自然科学分野から福井大教育地域科学部の山本博文教授(地質学)、福井高専の岡本拓夫教授(地震学)、同高専の田安正茂助教(海岸工学)の計6人。
県内の大津波の記録としては、近畿から東海、北陸に大きな被害を出したとされる天正大地震(1586年)の際に「山と思われるほど大きな波浪」が若狭を襲ったと示す文献がある。常神半島東側にあった「久瑠見村」が全滅したと伝わる大津波も、文献から天正年間(1573~92年)に起こった可能性がある。さらに福井市越廼地区の集落を消滅させたという伝承上の大津波も、時期が近い可能性がある。
ただ、いずれも科学的調査がないため、県の地域防災計画などの防災施策には反映されていない。
6人は2日、鯖江市の福井高専で初会合を開いた。大津波を引き起こした可能性がある断層として、能登半島東方や越前町~南越前町沿岸に位置する断層について検討。しかし、いずれも「天正年間近くに、能登に大きな津波被害があったことを示す目立った史料がない」(外岡教授)「大津波を起こすには水深が浅い」(山本教授)などとして可能性は低いとした。
その上で、敦賀半島から北北西120キロにあり、兵庫県沖まで延びる2本の断層地形に注目。活動履歴などは分かってないないものの「1本は1千メートルを超える落差がある活動層で、連動して動けば活断層で、連動して動けば若狭湾に大きな津波が来る可能性がある」(山本教授)とした。
田安教授は、津波の高さや陸上に広がる様子のシミュレーションに向け、海底と陸上の地形データを処理中であることを報告。「年内にはプログラムのめどを付けたい」とした。
6人は今後、「福井県の津波・地震に関する連絡会」として活動する。各自が津波の年代の精査や、2本の断層が動いた場合の地震規模などを分析し、年内に成果を報告し合う。また来年4月をめどに「久留見村」の伝承地で、津波の痕跡を調べる簡易の手動ボーリング調査も行うこととした。
共同研究を呼び掛けた外岡教授は「地震や津波の研究が専門領域に縛られ限界となっている。広く情報交換の場とした」と意義を説明する。事務局の岡本教授は「各分野の研究を生かし、地域防災に貢献したい」と話している。