福井大学において、本日学位記授与式を迎えられる学部卒業生並びに大学院修了生の皆様に対し、お送りする側を代表して、心よりお喜びを申し上げます。
今年度は、新型コロナウイルス感染症とその対応に、共に多くの力を費やした一年であったと思います。本学位記授与式も、昨年は本学アカデミーホールにわずかの代表者にお集まり頂き、学長の式辞のみで、誠にささやかに執り行いました。今回、2年連続の同様の簡略化は何としても避けたいと思い、担当事務局にも尽力頂き、三密を避け、適度のソーシャルディスタンスを確保できる条件の目処が立ち、ウィズコロナ下での都合のつく対象者全員出席しての、学位記授与式が執り行われています。残念ながら、スペースの関係で、ご親族の方の参列が叶わず、ユーチューブなどで、ご覧いただいており、悪しからずご了解戴ければと存じます。
ところで、今年は、ご承知の如く「東日本大震災」被災後十年にあたります。私は震災時、医学部長として県庁の高層階での会議に出席中でしたが、突然に緩く大きな横揺れを何度も感じました。それが止んだあと、県庁幹部の方々が1人また1人と退席され、戻ってこられる気配はなく、大変なことが起こったのかと感じました。その予感をも遥かに超える出来事が起こっていたことを、会議終了後に知りました。地理的な面からも、本県には甚大な被害はなく、本学の災害派遣医療チームDMATが被災地に派遣され、また看護師等の医療従事者、教職員、学生などによる災害ボランティアも、繰り返し現地に赴かれました。この未曾有の大震災により亡くなられた皆さまとそのご遺族に深く哀悼の意を表し、この未曾有の複合災害からの1日も早い復興を祈念いたします。本学の卒業生は、高度専門職業人を目指しており、その中でも、社会生活の要となる職業に従事する人が多いこともあり、有事の備えについては、自らの安全確保と共に、その場その場の状況に応じた、プロフェッショナルとしての社会的貢献についても、常々より留意して頂きたいと思います。
さて、改めまして、皆さんご卒業誠におめでとうございます。まずは、皆さんを支え様々な形でご支援いただいたご両親、ご家族、ご指導いただいた先生方、等々に対し、生涯にわたる感謝の気持ちを持って頂きたいと思います。加えて、皆さんは、大学、大学院において、各々の専門分野における、学問の学び方を十分習得された事と思います。これからは、知的好奇心、探究心に磨きをかけ、今まで身につけた知識、技能を駆使して社会で活躍し、一方その間、生涯学びの心を持ち続けて頂きたいと思います。その際、新しく制定した本学の理念、「格致によりて人と社会の未来を拓く」を、心に留めて戴ければ幸甚です。
中でも、海外からの留学生の方は、途中の帰国や、海外での学会出席もできず、アルバイト先も少なかったと思います。大変な留学生活にもかかわらず、よく辛抱され、学位を取得されたことに敬意を表します。思い出の中でみなさんが、日本で出会った人たち、経験した出来事、こころに残った物事を、いいことも、よくないことも、好きなことも、嫌いなことも全て、母国に持って帰って下さい。そのすべてが、日本です。差し引きして良くない印象なら、多分、たまたまよくないところを多くみた可能性があります。いい思い出が多ければ、是非日本はいい国だと思って下さい。今世界の国々の関係はすべてが必ずしも、良好ではありませんが、世界中に住む人間同士の関係は、皆さんのように、母国以外で住んだ経験のある人達がリードしてゆくものであり、それは必ずしもマイナスの関係ではないと、信じています。
今年の日本で選ぶ世界10大ニュースには、必ずテニスの大坂なおみ選手が入っていることでしょう。彼女こそ、日本人であり、同時に国際人だと思えます。本職のテニスでの集中力、人種差別反対の意志表示、行動力、加えて、2018年全米オープンの決勝で見せたウィリアムズへの、日本人的な気配り、これらをあわせた人としての、スケール感がすばらしいです。皆さんも思い思いに理想の国際人を見つけ、見習うよう努力してみては如何でしょう。
さて、新型コロナウイルス感染症についてです。皆さんも、まさに最終学年の勝負どころで、パンデミックに見舞われ大変な苦労をされたことと思います。大学への登学禁止という異常事態の中、今まで本学で一般的でなかったオンライン講義を経験することになり、初めての本格的試みに、大学側にも至らぬところがあり、戸惑ったことと思いますが、その実現のために、教職員が如何に奮闘したかも申し上げておきたいと思います。しかし、学生・教職員の健康・生命を何よりも優先するという目標のもと、全学的協力体制を敷き、また、コロナ禍で一人の学生もやめることのないようにと1,000人を超える方々からのご寄附もあって、対策も順調に進み、今までキャンパス内感染者ゼロであるのは大変有り難く思っています。
ところで、皆さんは、コロナ禍中にもかかわらず或いはだからこそ、自らの研究の中で、新しいアプローチを必要とした事も多かったのではないでしょうか。高校までの教育では、一つの正解を求めて、そこへたどり着くのが勉強だったのと異なり、自ら提起した問題の未知の解決法を求め、主体的に取り組むのが大学の研究、教育であるので、コロナ禍のためもし皆さんに、主体的に自ら取り組むチャンスが増えたのであれば、たとえうまくゆかなかったとしても、将来にとって大きな収穫があったと思います。
正直、私自身、もう少し早期の終息を予想していたウィズコロナがここまで継続しているため、学生、教職員の厭戦気分を払拭するためにも、限られた予算の中ですが、ウィズコロナについてもこれからかなりの対応が必要と思っています。ウィズコロナとは、実現困難と思われるウイルスとの共存ではなく、医学を中心とする人類の英知により、十分抑え込めるようになるまで、社会生活の中で人が感染しにくい状態を出来るだけ維持することと思います。
今後の感染の鍵を握るのは開発されたワクチンの作用、副作用あわせての出来栄えですが、サプライの問題や、耐性ウイルスの懸念もあり、評価が定まるにはしばらくかかりそうです。
もう一つ皆さんに申しておきたいのは、「新しい生活様式」についてです。たとえば、人と会う時はマスクをし、なるべく距離をあける、会話は小声で、飲食は、少人数で短時間に、などは、コロナ禍中、やむを得ないことですが、人間本来の性向は、人と食事をするときは、親近感を感じる距離で、会話もある程度楽しく、活発に、それなりの時間をかけてというのが、人間にとって自然だとも言われています。ポストコロナにおける生活様式については、このことを踏まえてこれから独自のものを作り出す必要があり、そのことについては、皆さんも、十分創意工夫して下さい。皆さんの4月よりの新しい環境でも、感染対策を徹底して、身を守ってください。
ところで、いつも私が年頭に掲げる今年の目標は、2年続けて「スピード感」です。学生諸君はどう思うでしょう。本学には割とコツコツタイプの人が多そうに見えます。そんな諸君が本当にやりたいことをコツコツするには、その他の時間をスピード感を持ってやり抜く必要があります。そうすれば本業を自信を持ってとことんすることができると思います。
おかげさまで、本学は、昨年度まで、複数の学部を持つ大学での就職率全国13連覇を成し遂げました。これも喜ばしいことですが、それに関連してわたしがもっと嬉しいデータは、離職率が全国平均の3分の1以下という実績です。キャリア支援課の皆さんの万全のアドバイスもあり、スピード感を持ってシューカツを行い、一旦決めた職場では、とことん頑張っているのは、いかにも福大生の、好ましいイメージと思います。
さて、そろそろお別れです。今、本学は少子高齢化の只中にある2040年における大学のビジョン・ミッションを策定しつつあります。その時には皆さんの母校は一層充実した「世界に通じる地方総合大学」そして、「社会より頼りにされる活力ある大学」となっていることと思います。そして、学びの母港(みなと)として、社会で活躍している皆さんにリカレント教育を始め、多様な学びを提供します。福井大学は常にすべての卒業生に開かれており、皆さんを心より歓迎します。
結びになりますが、みなさんは、我々が本日自信を持って世の中に送り出す837名の学部卒業生と353名の大学院修了生です。謙虚な心と同時にプライドも併せ持ち、これからの社会に颯爽と乗り出して下さい。
以上をもって祝辞といたします。
令和3年3月23日
福井大学長 上田孝典