福井大学医学部附属病院 救急・総合診療部、公立丹南病院 医師
内山 崇さん
幼い頃から医師になりたいと思っていました。新潟の山奥で村唯一の診療所を開いていた祖父が亡くなり、無医村に なったという話を聞いていたことから、医療過疎地域での医師を志しました。
研修終了間際、かねてから「へき地」での医療を志望していた私に、先輩医師から「船医をやってみないか」と連絡がありました。ある一定条件の船舶には船医の乗り組みが義務付けられており、その時は航行期間中一人で乗組員らの診断や治療に当たるというもの でした。研修が終わってすぐの若い医師に務まるのかと、周囲も、何より私自身にも不安はありました。ですが、あらゆる病気を診る総合医をめざす私にとって、この経験は今後必ず役立つと信じ、チャレンジすることに決めました。
船上では、けがや高血圧の治療から、腹痛患者を小型船で救急搬送し、26時間つきっきりで看病したこともありました。さまざまな病気や人と向き合うことができたことで、最新の医療環境が整う「最先端の医療」よりも、「地域の最前線」で健康問題に向き合う医 師をめざしていこうと改めて思わせてくれました。
私が現在勤務する病院では、大きな病院とは違い、幅広い診療が求められます。大学時代から地域医療を踏まえた姿勢で研修に取り組んできたことが活かされていると思います。
授業で専門的な最新医療を学んでいると「今の時代では、自分の理想とする医師ではなく、専門医をめざすべきなのか」と、迷った時期もありました。ですが、総合診療や救急に取り組む、寺澤秀一教授(医学部地域医療推進講座)との出会いで方向が定まり、思い描いていたこの道に進むことができています。「寺澤教授に会うために福井に来たのかな」と、思うほどの影響を受けました。今でもいろいろと相談させていただいています。
学生時代はスキー部と野球部に所属し、部活に費やす時間が多すぎたかなと思うほど打ち込みました。現在でも医療関係の野球チームに所属し、医療現場外でも医師の方との交流を持っています。
振り返ると、長いようで短い6年間でした。もっと医療とは違う分野で交流を深めたり、見聞を広めたりできたらよかったかなと思っています。ですから、福井大学生の皆さんには、広い視野を持ちながら、自分と向き合ってほしいと思います。そしてめざす道があるならその思いは絶やさずに、また、常に謙虚に感謝する心を忘れずにいてください。
内山崇さんは、臨床研修終了直後から2ヶ月間、工事船の「船医」として約100名の乗組員の健康を守ってきました。船上での体験をまとめた『ひとりぼっちの船医奮闘録』が出版されています。