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マルタ大学留学報告

医学部医学科5年

太田 真見子さん

IFMSAは、International Federation of Medical Students’ Associations の略で、国際医学生連盟のことをいいます。1951年に設立され、WMA(世界医師会)・WHO(世界保健機関)によって、公式に医学生を代表する国際フォーラムとして認められています。96の国と地域の120万人以上の医学生を代表する団体で、本部はフランスの世界医師会内に置かれています。   IFMSAには公衆衛生、エイズと生殖医療、難民、医学教育、臨床交換留学、基礎交換留学の6つの常設委員会があり、さまざまなプロジェクト・ワークショップが世界各国で運営されています。  太田さんは、医学部の部活動「FEAL」の留学グループに所属し、このIFMSAに参加しています。昨年4年生(2012年)の夏休みに交換留学プロジェクトでマルタ共和国のマルタ大学に留学しました。

国際協力と留学

私が留学をしようと思った経緯は、私が医師を志した理由にとても深い関係があります。私は、中学生のころから国際協力の現場で、難民や貧困に苦しむ人々のために働きたいと考えていました。そのため、大学では英語だけではなく、国際協力の現場で役に立つような専門技術を身につけたいと思い悩んでいたところ、高校生の時に母の知り合いに海外医療ボランティアをしている医師がいることを知り、医師になることを決意しました。 大学に入ってからは、国際協力に関する勉強会には参加していたものの、なかなか英語を勉強する機会はなく、ましてや海外の方と話す機会など、年に数か月訪れる留学生との交流の場だけで、学年が上がるにつれて、焦りが募っていきました。しかし、本来私はIFMSAの留学プログラムに参加することは考えていませんでした。というのも、IFMSAの留学プログラムは1ヶ月と非常に短期であり、またプログラムや希望者の関係で、英語を母国語とする国に留学できる可能性が非常に少ないからです。2ヶ月は英語を現地にいないと語学力の向上は望めないという情報を、嫌になるほど聞いていた私にとって、たかが1ヶ月間の、英語を母国語としない国への留学は、ほぼ無意味だとすら思えていました。そのため、私は2年生の終わりごろには、1年学校を休学して語学留学することすら考えていました。 こんな私に考えの変化が訪れたのは、休学と留学について相談した私に、「でも、あなたは高校3年生の時、1年でも早く医師になって、患者さんと関わりたいって言っていたよ。1年間を英語のためだけに費やすことはあなたにとって本意なの?」と、母が話してくれた時です。確かに私は、当時、「浪人はせず、1年でも早く医師になりたい。」「英語は医学を学びながらでも、自分で勉強できる。」と母に話していました。それを思い出した時、休学しないと英語が学べないなんて、ただの言い訳ではないかと考えるようになりました。与えられた6年という時間の中で、与えられたチャンスを最大限生かすべきではないかと考えるようになったのです。

留学までの日々

留学を決意して、まず考えたのは、1ヶ月の留学を自分にとっての最大のチャンスとすることです。1つは、国選び、もう1つは事前の準備です。 まず、留学先を選ぶうえでの必須条件として、私は「英語が母国語であること」を挙げていました。しかし、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどは、プログラムの関係で選択することができず、ヨーロッパはほとんどの国が母国語をもっているうえに、人気国であるため、抽選で外れる可能性が高いという状況でした。そんな時、見つけたのが、地中海に浮かぶ小さな島国、マルタ共和国です。もともとイギリス領であるため、公用語は英語であり、最近語学留学先として人気は出てきたものの、まだまだ認知度は低いという、私にとっては願ってもない条件の国ということで、留学先はマルタで即決しました。 そして、事前準備として私が行っていたのが、オンライン英会話です。教室に通うより安価であり、バイトや試験で忙しい私にとって時間の融通が利くオンライン英会話は、この上ない助けになりました。

マルタへ。

p1私がマルタに到着したのは9月2日。9月とはいえ、1ヶ月に2日しか雨が降らず、平均気温は27度という、地中海の夏を絵に描いたような場所でした。ここで私は、約1ヶ月間、英語と格闘しながらも、最高のルームメイトとともに、人生最高の夏を過ごすことになりました。

私の留学プログラムは、「基礎研究留学」というものであり、留学先は、「マルタ大学医学部病理学領域ウイルス学研究室」という部署で、併設されたMater Dei Hospitalに入院している患者の、感染症に関する病理検査を日々行っていました。研究内容は興味深かったものの、私自身は病棟での実習に興味があり、最初の3日間は、少し物足りない気分で過ごしていました。 そんな中転機となったのは、ウイルス学研究室の教授でもあり私のテューターであったDr. Karlとともに、感染症内科の医療スタッフとともに、回診をした時のことです。その時、医療スタッフの1人であった医師Dr.Nievelが、私が必死にメモを取っている様子を褒めてくださり、「興味があればいつでも病棟においで。」と声をかけてくださったのをきっかけに、5日目からは、病棟実習に加わらせていただくことになりました。

Mater Dei Hospitalでの実習の日々

病院実習でまず感じたのは、病院という場に宗教が根付いている点です。南ヨーロッパ全体にも言えることですが、マルタは敬虔なキリスト教徒が多いことで知られています。そのため、病院にはチャペルが併設され、各病室、廊下、ナースステーションなど、至る所に十字架、キリスト像、マリア像が飾られていました。そこまでは想像に難くなかったのですが、私が最も驚かされたのは、病院スタッフに神父がいたということです。

病院とは、ある意味、人々の生活の上で最も死に近い場所です。実際、Dr.Nievelの受け持つ患者の中にも、末期癌の患者が2人いらっしゃいました。2人とも、全身に癌が転移し、日々の病状の悪化が目に見えてわかるような状態でした。しかし、宗教に拠り所をもつ患者にとって、宗教を取り入れたケアというのは治療には役に立たないとしても、心に安らぎを与え、穏やかな死を迎えるうえで、とても重要なのだと感じさせられました。

また、印象に残っているのは、医師と患者との距離感が非常に近いという点です。Mater Dei Hospitalの医師が診察しているところを見ると、一見、患者の家族が面会に来ているように見受けられます。その理由としてあげられるのは、彼らが白衣を着ずに診察しているという点に加え、彼らが患者の隣に座り、手に触れ、笑顔で話しかけ、時には診察の合間に食事の介護をするという、非常に暖かく心のこもった診察をしているという点です。日本では、特に大学病院では、なかなか見られない診察風景であり、医師と患者との関係性を考え直すよいきっかけになりました。

ルームメイトとの日々

病棟実習を続ける毎日は新しい刺激の連続でとても充実していましたが、英語、特に医学英語という壁に悩まされ、私にとって、非常にストレスのたまるものでした。特に最初の1週間は、うまく教授と意志の疎通をとれず、泣きながら病院から帰ってくるような状態でした。そんな私を日々元気づけてくれたのは、一緒に暮らしていた7人のルームメイトの存在です。病院実習が終わり疲れ切って昼寝している私を無理矢理海に連れ出してくれたり、家に帰っても勉強三昧の私におやつを作ってくれたり、英語を教えてと頼む私に毎日英会話レッスンをしてくれたりと、毎日私のことを助けてくれました。 私は留学先で、黙らない、質問する、理解しようと努力するということを念頭において生活していました。黙っていても質問をしなくても会話は進んでいきます。理解しなくても、相槌を打って会話をやり過ごすことは可能です。しかし、この状態ではお互いに理解しあったり、お互いの国の情勢や文化について深い話をしたりするのは不可能です。私のルームメイトは、とにかく私が必死だということを感じ取ってくれたのか、向こうから私とコミュニケーションをとることに心を砕いてくれました。そのため、つたない英語でも、東日本大震災の話や、自殺者が多い日本の現状などを話すことができましたし、ドイツ人の学生とはナチスドイツと日本の戦争の歴史について、ユニオンジャックをこよなく愛するイギリス人の学生とは、日本の国旗と日本の歴史が抱える複雑な問題について、日本の学生とも話したことのないような話題を、深く話し合うことができました。

p4にとって、留学先での経験の大部分をしめているのが、実は彼らとの思い出です。もちろん、実習で得た経験は大きなものがありましたが、彼らと過ごした日々は、何物にも代えがたい日々だったと思っています。そんな彼らと過ごす最後の日、ルームメイトの1人、ナタリーが言った言葉を私は今でもよく覚えています。 「10年後またみんなで集まろうって計画してるの。その時あなたは、立派な総合診療医になってて、私は神経内科医になってて、マティは整形外科医になってて、リズは小児科医になってるの。だから、これからも頑張ろうね。」 この約束が実現可能かどうかはあまり問題ではありません。でもこの約束が、これからの私を支える大きな助けになることは確かです。こんな素晴らしい友達と出会えたことが、この留学において一番の収穫だったと思っています。

最後に。

私は留学に行く前に、両親に「1ヶ月でも語学力が上がることを証明してやる!!!」と宣言していました。そして1ヶ月後、私の語学力がどうなっていたかというと、なんと格段に向上していました。1ヶ月で伸びた英語力なので、それを持続させるために留学後も練習し続ける必要がありましたが、私にとっては大きな変化でした。 今回の留学で私が最大の目標としていたのは語学力の向上でしたが、別に目標は何でもいいと思います。「自分を変える」でも、「世界に友達を作りたい」でも、「自分が興味のある分野を学びたい」でも、本当になんだっていいんです。ただ、その目標に向かって必死に努力してください。そうすれば、1ヶ月という短い期間でも、きっと何かが変わります。

 

 

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