医学部医学科3年
辻 沙織さん
IFMSAは、International Federation of Medical Students’ Associations の略で、国際医学生連盟のことをいいます。1951年に設立され、WMA(世界医師会)・WHO(世界保健機関)によって、公式に医学生を代表する国際フォーラムとして認められています。100カ国以上、200万人以上の医学生を代表する団体で、本部はフランスの世界医師会内に置かれています。 IFMSAには公衆衛生、エイズと生殖医療、難民、医学教育、臨床交換留学、基礎交換留学の6つの常設委員会があり、さまざまなプロジェクト・ワークショップが世界各国で運営されています。 辻さんは、医学部の部活動「FEAL」の留学グループに所属し、このIFMSAに参加しています。今年(2011年)夏休み中の9月1日から9月30日まで臨床交換留学でオーストリアのグラーツ大学に留学しました。
私は、9月1日から30日まで、オーストリアのグラーツ医科大学病院の麻酔科で臨床研修を行いました。おもに、手術に関する麻酔、集中治療室での疼痛管理、手術前診察など手術を行う患者に対する診療や術中管理などを学びました。
手術の際の麻酔の見学と手技の練習をしました。実習を行った手術部は、一般外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、産婦人科、眼科、歯科口腔外科の手術を行っています。そこでの麻酔医の仕事は、手術前の患者さんに各手術ユニットの前で挨拶をし、その日の気分や体調をカルテを確認しながらたずねます。特にアレルギーについては、毎回確認していました。 私は、その間に担当看護師さんと一緒に、手術準備室でその日の手術に使用する薬剤や機器の準備を行いました。はじめにその手術の麻酔に用いるすべての薬剤を準備台に出し、注射器に取り分けシールでラベルを貼ります。また、生理食塩水を何本かの注射器に取り分けておきます。これは、IVラインを入れたときや粉末の薬品を溶かすのに使用します。点滴台、気管挿管や導尿の器具の準備、局所麻酔の時にはエコーの準備もしておきます。 患者さんが準備室に搬送されてきたら、まず心電図の電極、血圧計、SpO2計測器を患者さんにつけてモニタリングを開始します。その後IVラインを確保し、気管挿管時の痛み軽減のための鎮痛剤と筋肉弛緩薬、催眠薬を導入します。薬剤導入の際は見学のみ行いました。その後、フェイスマスクをあて酸素を供給します。患者さんの意識があるときは恐怖を与えないようにフェイスマスクが患者さんに触れないように注意します。 患者さんの意識がなくなったら、気管挿管、他のIVラインや動脈ラインの確保、導尿(2時間以上の手術のみ) を行うと同時に、吸入麻酔薬の導入を開始します。すべての準備が整ったら、いったん計器類をはずし、手術室へ搬送します。うつ伏せや横向きなど手術する体制にしてから、手術室内の機器に計器類をつなぎ、モニタリングを再開します。脳神経外科の手術では、脳波による麻酔深度測定(BIS値によるモニタリング)を行うので、電極を装着します。 手術中には、モニタリングしながら用いた薬品や機器の説明、モニタリングの仕方、IVラインや採血などの手技練習、手術方法や原因疾患についての説明を受けました。眼科の手術では顕微鏡を用いることが多く、執刀医のご好意で覗かせていただいたり、別の手術では、輸血準備やミスを防ぐためのダブルチェックの血液型診断などを行いました。また、いつ、どの薬品をどのIVラインからどのくらい入れたかなどの記録を電子カルテ、または紙カルテに記入をしました。患者さんの術後の疼痛管理に関する指示書は術中に作成している麻酔科医が多くいました。手術後は、手術室で麻酔からの覚醒を待ちます。覚醒が確認できたら状態によって酸素マスクを装着し、ICUまたは回復室へと搬送します。搬送先でカルテや疼痛管理に関する指示書を渡し、注意点を伝えたり、使用する薬品を渡します。手術室に戻り、記録用紙に手術や使用した薬品について記録する差魚を見学、これで手術に関する一連の作業は終了となりました。
ここでは、手術後の患者さんの疼痛管理について、研修しました。おもに、心拍数、脈拍、体温、血圧の管理や適切な処置を行ったり、輸血や高カロリー輸液など薬品の投与を行っています。 また、検査中の患者さんの呼吸管理のため、CTやMRI検査への付き添いもします。その他、救急で運ばれてきた患者の手術の手配などが行われています。
一般外科、耳鼻咽喉科で手術を控えた患者さんの手術前診察を見学しました。基本事項はもちろんのこと、アレルギーに関する質問をしたり、運動時の酸素消費量などを測るため、エアロバイクに乗っていただいたりしていました。また、手術の麻酔に関する注意事項として、食事制限や起こりうる副作用について患者さんや家族に説明をし、同意を得ていました。患者さんや家族からの疑問や不安などもこのときに聞きだし、解消できるよう丁寧な説明がなされていました。
留学に行くまで、手術室には一度も入ったことがなく、ましてや見学したこともなかったので、毎日がとても新鮮でした。臨床的な知識がほとんどなかったので、基本的な知識から丁寧に指導していただき、勉強になりました。私の医学英語の知識も浅く、先生の説明が十分理解できないときなども先生方が別の言葉で言い換えてくださったり、インターネットで図を出して、何とか理解できるよう努めてくださいました。また、休憩時には麻酔に関する知識だけではなく、病院の医師の待遇や勤務状況、オーストリアの医療事情なども教えていただきました。日本はどうなの?と聞かれることも多くありましたが、うまく説明ができず心残りでした。ぜひ日本でも機会があれば見学に行ってみたいと思いました。現在は基礎医学を勉強している段階ですが、その知識を研修の際、うまくつなげることができず、医学知識の浅さや勉強不足を感じるとともに基礎科目の重要さも認識しました。また、英語に関してもオーストリアの医師や看護師、ほとんどの医療スタッフが英語に精通しており、自分の英語力のなさを感じました。日常英語はもちろん医学英語に関してもっと勉強していきたいと思います。 研修の中では、実際に患者さんのIVラインをはじめ、採血、導尿カテーテル挿入、気管挿管や聴診など日本ではできない体験もできました。担当医がお願いすると、現地語もしゃべれず、手際の悪い私が処置をしても患者さんは嫌な顔をせず、快く了解してくださり、非常に医学生に対して理解が深く、環境がよいと感じました。担当の先生も実際にやってみないと技術は学べないと話し、いろいろな体験をさせていただき感謝しています。 今回の留学で学んだことや感じたことを忘れず、また発見した自分の問題点を解決していけるようこれからの大学生活を送りたいと思っています。