工学研究科 生物応用化学専攻2年
大橋 友恵
今回の学会では、「細胞周期に依存したHMR領域の解析」というタイトルで口答発表させて頂き、さらには賞まで頂くことができて大変嬉しく思っています。
私は、パンやビールを作る出芽酵母を用いて、エピジェネティクスという機構について研究を行っています。エピジェネティクスとは、DNA 配列に依存しない遺伝子の発現機構のことです。例えば、ほとんどの生物で、DNA からタンパク質が合成され、すべてが作られるため、DNA は生命の設計図だと考えられています。しかし、全く同じDNA を持つ一卵性双生児において、片方にのみ DNA による疾患である、遺伝子疾患が現れることがあります。これは DNA 以外の調節があるためで、その調節のことをエピジェネティクスと言います。出芽酵母から人まで保存されているエピジェネティクスですが、その中に、まだ詳しく解析されていないサイレンシング機構があります。サイレンシングは、既知の DNA 領域で、遺伝子からタンパク質が合成されるのを強固に抑えており、大切な遺伝子が抑制された場合、疾患として現れることもあります。本研究の目的としては、そういった遺伝子疾患や細胞分化のメカニズムの解明にあります。
私は、これまでに、細胞の成長に依存してサイレンシングがどのように変動しているのか解析してきました。その結果、DNA 複製準備期間である G1 期で、サイレンシングの指標である Sir3 タンパク質が増加する結果を得ました。つまり、G1 期に遺伝子の発現をさらに強く抑制しているということです。どうして G1 期特異的に起こるのかまだ分かりませんが、今後明らかにしていきたいと考えています。また、Sir3タンパク質がゲノム上の新しい領域に存在することも発見しました。その新規Sir3タンパク質存在領域を解析した結果、既知の機構とは異なる性質が見つかりました。そこで、新たなSir3タンパク質の働きがあるのではないかと考え、現在さらなる解析を行っています。
生物を用いた研究は、常に不思議と驚きに遭遇します。酵母は小さな小さな生物ですが、ちょっとした培養で成長が悪い時など、試薬が悪いのかなと確認してみたり、酵母の気持ちになって考えて見たり、時には頑張って!と応援してみたり・・・ 今回は、賞を頂くことが出来て、私はもとより酵母も嬉しく思っていると思います。また、今後の研究に対しても、とても良いモチベーションになりました。ありがとうございます。
最後に、本研究をするにあたり、実験や発表の指導をして頂きました内田博之教授、沖昌也准教授、共同研究者である東京大学の太田邦史教授、いつも迷惑を掛けている先輩方、後輩方にもこの場を借りて厚く御礼申し上げたいと思います。いつも本当に有難うございます。