桑水流 理 先生

目尻の小じわを工学的に解き明かす

  • 工学部 工学研究科 原子力・エネルギー安全工学専攻(腐食疲労、環境脆化、マルチフィジックス)
  • 桑水流 理 先生

「お肌の曲がり角」を科学する

肌の曲がり角といっても、学生の皆さんはまだ感じたことがないでしょう。ここでの話は、年をとると突然現れるという「小じわ」の話です。年齢を重ねると、なぜ皮膚の形が変わるのでしょうか?

私は機械工学の研究者で、構造力学や材料強度学などを専門としており、普段は原子力や自動車の分野において、構造・材料の変形や破壊について研究しています。機械構造物にも、“しわ”は現れ、材料力学では座(ざ)屈(くつ)と言います。座屈とは、圧縮を受けた構造が曲がって潰れる現象を指します。では、若い皮膚と老いた皮膚で、座屈がどう違うのか?

皮膚は意外と奥深い

皮膚は大きく分けると、表皮、真皮、皮下組織の三層から成ります。表皮は丈夫な角質を作り続け、皮膚を乾燥から守っています。真皮は上側にヒアルロン酸などから成る柔軟な層を持ち、下側にはコラーゲンやエラスチンから成る頑強な層を持っています。皮下組織はいわゆる皮下脂肪で、養分を蓄えています。これらは個別に老化し、老化の仕方も異なります。そこで、文献データに基づき、老化を考慮した皮膚の座屈を計算してみたところ、ある年齢でしわの形(座屈モード)が変化し、しわが突然大きくなることがわかりました。

計算したら実験で確認

28歳(左)と39歳(右)の圧縮試験の写真

28歳(左)と39歳(右)の圧縮試験の写真

計算結果を確認するため、ある企業と実験を実施しました。通常は筋肉の収縮により皮膚が圧縮されますが、客観的に調べるため、機械を使い、こめかみ近くの皮膚をつまむ実験を行いました。25歳から56歳までの約100人を対象に実験を行い、発生したしわの量を画像計測しました。すると、30代前半を境目に、しわの量が急激に増える結果が得られました。これらの結果から、個人差はありますが、30代前半において、急に大きく深いしわができ易くなることが示されました。これが小じわとなって刻まれるのです。原因は、表皮と真皮の力学的バランスの乱れです。

スキンケアは重要ですが、まず現在の皮膚の状態を正確に知ることが大切です。皮膚の状態がわかれば、老化度診断や、より効果的スキンケアの検討が可能になります。そこで現在、表皮と真皮のバランスを調べるため、非常に薄い表皮の力学特性を計測できる実験装置を開発しています。皮膚を傷付けないように、圧縮空気のジェットを使う方法なので、研究室の学生と流体力学の勉強をしています。皮膚科学や流体力学は専門外ですが、人生日々勉強です。皆さんも一緒に勉強しませんか?

今ハマっていること★

teach_kuwaz3週末も家で仕事をしていることが多いのですが、疲れたときは、妻とよく足羽山に行きます。桜や紫陽花や紅葉を眺めたり、薄汚れた羊や哀愁漂うカンガルーと戯れた後で、大久保茶屋で一服するのが定番です。