「いやされない傷」を「いやされる傷」に
- 医学系研究科 子どもの発達研究センターAge2(エイジ・ツー)企画 (小児発達学、小児精神神経学)
- 友田 明美 先生
- 研究者詳細ページ
4月より本格的なスタートを切った「子どもの発達研究センター」。赤ちゃん世代からの発達について研究する「Age2企画」部門の教授として6月に熊本大学より着任した友田先生にお話を伺いました。先生は小児科医として小児発達学を専門に、主に睡眠・メンタル・発達障害の治療と研究に携わられてきました。
赤ちゃんも「うつ」になる
子どものこころは大人以上に繊細で、心にストレスを受けるとそれが脳に影響を与え、自律神経機能が低下し、さまざまな症状を生むことがわかってきました。母親がうつ病だったり、育児ノイローゼがあると赤ちゃんは笑わなくなり、明らかに「うつ」になります。また、親から愛情が注がれなくなると、成長ホルモンの分泌がとまり、「愛情遮断症候群」に陥ります。睡眠が浅い、夜泣きをする、低身長、低体重、対人関係の障害など精神および身体の発達に障害が出ます。よく草木に水をやるときに、声をかけてやるとどんどん伸びるという人がいますが、子どももまさにその通りなのです。私は、自分で症状を伝えることのできない赤ちゃんを診断するための基準作りに取り組み、早期にその兆候を発見したいと考えています。
虐待を受けた子どもに残る脳の傷あと
赤ちゃんの頃から、身体的、心理的、性的虐待やネグレクトと呼ばれる養育放棄や怠慢といった虐待を受けると、その影響は大人になったあともうつ病やPTSD(心的外傷ストレス障害)、または多重人格と呼ばれる解離性同一障害や境界性人格障害などさまざまな精神疾患を発症します。以前は、虐待された子どもが残す傷あとは、身体的な傷が治れば後は「こころの問題」であると考えられ、とくに医学的治療や支援は行われてきませんでした。ところがアメリカ・ハーバード大学のタイチャー先生とともに進めた研究で、子どもの頃に虐待を受けると脳の一部に発達障害を起こすということがわかりました。そして、その影響は大人になっても続き、そのうち3分の1の人たちは、わが子を虐待するといわれています。虐待は世代を超えて受け継がれていくのです。
また、その人が持っている遺伝子のタイプによって、うつ病になりやすかったり、ストレスに弱いといった傾向があることは以前から言われていることですが、そのような場合でも社会的支援が非常に厚ければ発症の可能性は減らせるというデータがあります。
それは、虐待を受けた場合にも言えることであり、訪問して話を聞いたり、それぞれの子どもたちに合ったケアを地域と一体になって行うことでさまざまな精神的疾患が予防できると考えられます。その支援は早ければ早いほど、その子どもが受ける傷は小さくて済むのです。私は、この福井大学で一人でも多くの子どもたちが社会で生き抜く力を持てるよう支援していきたいと考えています。
今ハマっていること★
福井に来てからは、時間があると名物「そば」の食べ歩きを楽しんでいます。6月からすでに5~6軒ほどで食べました。おいしいところを知っている方は教えてください!