過酷な環境に生きるものたちから情報を得る
- 医学部看護学科健康科学領域(呼吸器内科学、慢性呼吸器疾患)
- 石﨑 武志 先生
高地に住む人や動物はなぜ低酸素状態に耐えられるのか
呼吸器と循環器の間の肺循環系という機能を専門としています。呼吸器に疾患があると、低酸素状態に陥り、肺血管が収縮し、肺高血圧症を発症します。私は大学時代、山岳部に所属していました。高地に住む人や動物は慢性的に低酸素状態であるのに、普通に暮らしています。そこで彼らの適応機序が解明できれば、肺が低酸素状態によってどのような影響を受けるのか、肺高血圧症の治療法が発見できるのではと研究をはじめました。
年ほど前から国際共同研究で中央アジア天山山脈がそびえる国キルギスタンを主な拠点に標高3,000m~5,000mに住むヤクやチベット羊と呼ばれる動物やヒトが、低酸素地域でなぜ肺高血圧症にならないかについて研究しています
得られた情報を臨床に活かす
ヤクの肺血圧をカテーテルで検査し、肺血圧を調節している血管拡張物質である一酸化窒素を多く出していることを突き止めました。また、一酸化窒素を消去する物質をブロックすることも分かりました。慢性呼吸器疾患患者では、この一酸化窒素が排出されていません。また、血管を収縮させるRho/キナーゼと呼ばれる酵素の働きはヤクでは非常に弱く、肺の血圧が低く保たれていることも分かりました。平地から高地に連れてこられ住んでいる牛などではこのような機能は持ち合わせていません。これは、何万年もかけて環境に適応するために動物や人が得た遺伝的適応力なのですが、この能力は遺伝子によって世代を超えて受け継がれているのでしょう。
今後はヤクの遺伝子レベルの解析にも取り組み、この仕組みをうまく使えば臨床に使える薬の開発につながるのではと思っています。
大学で学ぶ意義
これまで医学部では呼吸器分野の教員が少なく、医師数も伸び悩んできました。しかしCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がん、膠原病関連肺疾患、睡眠時呼吸障害や喘息、感染症など、慢性呼吸器疾患がますます増えてきています。そういう状況の中で、今後この分野のニーズは必ず高くなると考えており、教育には力を入れていかなければと思います。
医師は主に治療を担当しますが、看護師は看護ケアに加え、病気の予防や生活指導が重要な役割です。看護師を目指す学生に対しては、大学で基礎として呼吸器の構造と生理学、そして病態についてしっかり学んでおいてほしいと考えます。どんな疾患においても患者やその家族を支え、QOLの維持のため、呼吸管理は重要です。慢性呼吸器疾患分野認定看護師の養成課程も昨年度から設置していますが、看護師になった後も勉強を続け、技術や指導力、判断力を磨き、きめ細かいケアのできるスーパーナースを目指してもらえたらと思っています。
今ハマっていること★
医学部開学以来釣りにはまっています。開院前にはよく行きましたが今は時間があまりないのが残念です。写真は生涯において釣り上げた最も大モノです。