自閉症の本質は何か」を問う
- 子どものこころの発達研究センター こころの形成発達研究部門(精神神経科学、自閉症)
- 松﨑 秀夫 先生
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増えている自閉症
自閉症の有病率は飛躍的に増えていて、現在は実に学童の2.3%を占めるとされています。しかし、その原因や治療法はまだ明らかになっていません。このため、医療機関および支援機関では社会生活に適応するための訓練を行っていて、これを「療育」と呼びます。療育は、なるべく早期に始めることで効果も大きくなりますが、児童精神・小児発達の専門医は日本全国で200人ほどしかおらず、発達障害が疑われるお子さんを持つ親御さんが、専門医に出会うことさえ難しい状況です。私は、平成18年度に「子どものこころの発達研究センター」設立に加わったことをきっかけに、自閉症の診療をより円滑に運ぶため、自閉症のマーカー開発およびメカニズム解明の研究に取り組んでいます。
本質に迫るための研究
私は、これまでの研究で、自閉症児では、血液中の中性脂肪の中でVLDLと呼ばれる超低比重たんぱく質中の中性 脂肪濃度が特に年少者において低くなることを見出しました(図1)。さらに、ある種の自閉症モデルマウスを用いた実験 で、これら血中脂質の低下を餌で補うと自閉症特有の症状が緩和されることを診療に結びつかないか検討しています。 さらに、研究者の間では神経伝達物質セロトニンが自閉症に関連があるとする「セロトニン仮説」が知られています。脳内のシナプスにあるセロトニンは、主にセロトニントランスポーター(SERT)と呼ばれるたんぱく質によって調節されて います。私たちは、PET検査法(ポジトロン断層法)を用いて大人の自閉症の方のSERTを解析し、脳内で広範囲にわたってその機能が低下していることを突き止め、その原因が神経細胞内でSERTを細胞膜まで輸送する分子の異常による可能性を報告しました。
自閉症は、遺伝要因に環境要因がプラスされることで発症する疾患とみなされています。先の所見は、一見別々の方向を 向いているように思われますが、すべてを統一して解釈する理論を打ち立てて、生物学的本質を理解するのが私の目標です。今後もさまざまな視点から検証し、「なぜ」「いつ」自閉症になるのかを解明して、診療に結びつけたいと考えています。
交流を通して理解につなげる
私の研究室では、月に3回程度、福井大学の全学生を対象に勉強会を開催しています。これまでの自閉症研究について詳しく学び、臨床では症例検討を行っています。毎年夏に行う自閉症児の療育キャンプにも参加してもらい、子ども達との交流でより理解を深める場を提供しています。中には、私達の研究に参加する学生もいます。学生時代は、自分の興味に合わせて何にでも取り組める貴重な時代です。勉学はもちろん、興味のあることには、ぜひチャレンジしてください。わが松﨑教室へも参加をお待ちしています。
今ハマっていること★
今も昔も野球が大好きです!福井に来てからも時間があれば研究室で素振りをし、野球チームを結成して活動しています。求む!対戦相手。