失った草原を取り戻す
土木を超えた挑戦
- 寺﨑 寛章
- TERASAKI Hiroaki
- 工学部 講師(水文学、環境水理学)
Profile
1983年、石川県生まれ。2011年、福井大学大学院工学研究科システム設計工学専攻博士後期課程修了。2013年から同大学院工学研究科特命助教、2015年4-9月にプトラ大学マレーシア(UPM)客員研究員を兼任。2016年12月、福井大学工学部建築・都市環境工学科助教として着任。
研究者詳細ページ
“土木”の枠にとらわれない
私の専門は土木工学ですが、英語では「Civil Engineering」で「市民の」という意味を含みます。恩師からは市民のためになる結果を生むのであれば、いわゆる“土木” の道路や河川、上下水道などの枠から外れてもいい、そう教えられました。土木工学のなかでも、地球上の水の循環に関する分野「水文学」を使い、主にアラブ首長国連邦における砂漠の水文観測や緑化技術の開発、バングラデシュ僻地での淡水化装置による飲み水支援、インド農村部の大気汚染調査と健康影響評価などに関わってきました。どれも一般的な土木技術者が関わることは少ないですが、住民の生活に真に必要とされています。
草原の復活に向けたプロジェクト
今年はモンゴルで「砂漠の緑化」をテーマに土壌の早期修復と草原の回復に向けたプロジェクトを立ち上げました。モンゴルというと大草原をイメージされがちですが、ウランバートルから北へ約500km離れたムルンでは、近年、世界的にカシミヤの需要が高まり、過放牧による砂漠化が進行しています。山羊は根まで牧草を食べるため、牧草が育たず、土壌が劣化し、さらには、砂塵による健康影響も懸念されています。
現地では、水文学の一つである、地表面からの蒸発量と土壌浸透の観測から始めました。そこから日本で土砂災害防止などに用いられるのり面の緑化工法をモンゴル版にアレンジし、現地で調達できる羊毛にフルボ酸という土壌改良材を組み合わせた緑化資材を試作しています。
また、スーパーフード市場も視野に、有用作物の栽培の実証実験も行っています。持続可能なプロジェクトにするためには現地住民はもちろんのこと、農業技術者、さらには健康影響や予防医学の観点から医学系の先生と協力し、垣根を越えたチームワークが不可欠です。フィールドワークは過酷ですが、住民や子ども達の喜ぶ顔を見ると達成感が溢れます。決して簡単ではありませんが、後世に大草原を残せるよう、挑戦していきます。
ロードバイクで一人旅。名古屋からのんびり12時間かけて福井に帰ってきたことも。
自分を見つめ直す良い機会になり、自動車や電車とも違う風景を感じられるのはとても新鮮。