CHAPTER01終身雇用から転職の時代へ
日本における働き方の変化を視野に
新たな人事戦略を探る

産学官連携本部 准教授 竹本拓治 × 株式会社オールコネクト 竹内真治

左:竹本 拓治
京都府出身。同志社大学大学院総合政策科学研究科修了、博士(政策科学)。京都大学経営管理大学院附属経営研究センター特命講師等を歴任後、福井大学へ赴任。現在、産学官連携本部 准教授。専門は、アントレプレナーシップ(企業家精神)論などキャリア教育と経営学。二児の父として「福井の子育て環境はすばらしい」と絶賛。

右:竹内 真治
愛知県出身。福井大学工学部情報メディア工学科卒業後、通信回線や電力、スマートフォンなどの通信インフラサービスを取り扱う株式会社オールコネクトに入社。コールセンター係長を経て、現在は人事戦略部広報課課長として、同社ブランディング戦略や広報活動を担当。「水と魚、酒と米がおいしいから福井に定住を決めました」と話す大の福井ファン。

研究の目的・内容

 近年、日本でも、終身雇用制が崩れるとともに、転職が特別なことではなくなり、多様な働き方を選択できる社会へと移行しつつあります。
 このような流れを背景に、企業の人材確保と育成に必要な視点や手法は何か?雇用される労働者に求められる能力(エンプロイアビリティ)とは何か?といった課題を検討し、「働く」ということにおける日本の風土をどう変えていくべきかを探っていきます。
 学生がインターンシップや企業の事業に関する調査等に参加し、その結果を相互にフィードバックし合うことで、企業の新たな人事・経営戦略を検討し、同時に学生の職業意識の向上を図っていきます。

成果

 企業においては、上場を視野に入れた経営課題を検討する中で、エンプロイアビリティを主軸にした人事戦略構想が固まりつつあります。また、インターンシップや事業調査に参加した学生は、企業における実践的視点や思考を体験でき、大学にとっては、「地域産業界に資するアントレプレナーシップを備えた人材育成」というこれまで少なかったテーマでの研究を深めることができました。

共同研究のきっかけは、
企業家精神(アントレプレナーシップ)重視の考え方から

竹内・竹本先生が弊社を知られたのは、社長の岩井と出会ったときだそうですね。
竹本・ええ、福井へ赴任するに当たり、京都と福井のJC(青年会議所)の方や福井の経営者を通じご紹介いただきました。
竹内・そうなんですね。弊社の第一印象はいかがでしたか。
竹本・地域に対する想いですね。福井で人材を育てたいというお考えが印象的でした。
竹内・なるほど。人材育成に関する共同研究のお話が出たのはそのときですか。
竹本・いえ、それから1年程後でしょうか。古市取締役とお会いしたときです。岩井社長も古市さんも、僕の研究に共感してくださって、それなら一緒に何かやりましょうと話が進み、アントレプレナーシップ教育研究に助成いただくことになったのです。
竹内・僕が先生にお会いしたのは、そのお話が具体化したときですね。先生のご研究が、弊社が進めようと考えていた人材採用の取り組みに直結すると感じたので、ぜひ一緒に、ということになったのだと思います。

東京じゃなくても福井でできる!
地域に根差した人材育成方針の源は?

竹本・僕は、自分で会社を興さなくても、入社した会社で新事業を立ち上げようという気持ちを持つ、イントラプレナー(社内起業家)になること、つまり「企業家精神(アントレプレナーシップ)」を持って「働く」ことも大事だと考え、その研究を続けてきました。さらに、福井では、地域に貢献する人材の育成についての研究も始めたわけですが、御社の「地域に根差した人材育成方針」はどこから生まれるのでしょう。
竹内・学生も含め福井の方には「福井だからこれくらいしかできない」と考えている人がいる気がします。しかし、弊社はウェブというフィールドで全国を相手に仕事をしており、福井でも首都圏と同じような働き方ができる。むしろ、知識・人脈・スキルなど含めて同じ働き方をしないと生き残れない。そんな事実があるからだと思います。
竹本・確かに、企業家精神を持った学生でも、起業するなら東京でないと成長できないと思い込んでいる者が多いです。その意味で御社は、「福井でこれだけ成長している企業がある」というよいモデルですね。
竹内・ありがとうございます。ウェブでどことでも繋がることができ、今後、5G(第5世代移動通信システム)が始まると、VRやIoTなどが進み、場所を選ばず働けるのが今以上に当たり前になってきます。これらを踏まえ、地方だからできる生活と、首都圏のような働き方の両方が叶う環境に持っていけたらと思っています。

共通教育「現代社会とキャリア・アントレプレナーシップ」(担当 産学官連携本部准教授 竹本拓治)の授業にて講演中の株式会社オールコネクトの岩井宏太社長(2016年12月)。

アントレプレナーシップ

entrepreneurship。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢などを指す企業家精神。アントレプレナーという言葉は「企業を起こす人」あるいは「起業家」という意味のフランス語が英語に転用されたもの。

イントラプレナー

intorepreneur。社内で新ビジネスを立ち上げる際、責任者としてチームを率いて成長させる人を指す。スピンオフ(会社の分離、新設)すること等もあり、様々な形で元の会社に貢献するパターンがある。

これからの社会に求められる能力を伸ばし
人材確保に生かす

竹本・御社では採用に当たって、ユニークなインターンシップを実施されていますね。うちの学生も参加させていただき、大きな刺激を受けてきました。
竹内・そういっていただけると嬉しいですね。今回のインターンシップは、全3部構成で実施しています。第1部が、「Change The Mind〜思考を変える〜」を目的に、弊社の事業課題を示し、改善策を発表してもらいます。考えの甘さを痛感し悔しくて泣いてしまう子もいますが、そこでスイッチが入り社会人目線に近づき、一気に集中できるようになります。
そして第2部が、「Change The Vision〜視点を変える〜」。仲間と向き合い、自分と向き合うことで、1人では気づけない自分の人生の違い、強みの違い、個性に気づき、新しい自分を発見してもらいます。
竹本・おもしろいですね。そして、勝ち抜いたが学生がハワイへ行ける。
竹内・はい。最後が「Change The World〜世界が変わる〜」。非日常的な環境だからこそ、普段出てこないアイデアや新しい価値観に触れることができ、自分の世界が変わっていく。そんな体験をしてもらうのがハワイで実施する狙いです。
竹本・確か10人くらいの枠だとお聞きしましたが、大きな経費をかけてそこまでされるのは、なぜですか?
竹内・学生には、可能性を広げたうえできちんと取捨選択をし、人生を歩んでほしいと思っているからです。価値観というか視野を広く持っていれば、可能性が生まれ、選択肢が増えます。地域にもこんな企業があるということを知って欲しい。福井大学は僕のように東海からの学生が多いと記憶していますが、福井の企業を知らずに卒業して戻ってしまうのはもったいない。価値観にせよ、地域の企業にせよ、選べるということは、幸せなことですからね。なんて偉そうに言いましたけれど、これを機に弊社に興味を持ってもらい、一緒に働く仲間になってくれると嬉しいな、というのもあります(笑)。
竹本・そういう長期的な視野を持って社員教育に取り組んでおられるのですね。
竹内・はい。弊社でしっかりと業務を『攻略』した人は、どこへ行っても「仕事ができる人間」と思われる。そういう会社を目指したいと考えています。
竹本・うちの学生に言っているのは、オールコネクトに就職すると外資系にも転職できるよと。御社のメリットかデメリットかわからないですが、引き抜かれるよという話です(笑)。
竹内・そういうポテンシャルを持った学生が3年でも弊社に勤めてくれればいいですね。退職したとしても、その人が更に活躍するのは喜ばしいことですし、弊社にもナレッジやノウハウが残るわけですから(笑)。
竹本・新しい発想ですよね。この会社に3年勤めれば高いスキルが身について、ステップアップ、転職もできるということを自らPRするというのは。雇用される能力、いわゆるエンプロイアビリティというのは、日本の企業ではまだあまり明確化されていません。そこを先駆けて明らかにして、定年まで働くより、スキルを身に付けてステップアップしていくのが当たり前なんだよという気運を広げていこうということですね。
竹内・ええ、決してうちを踏み台にして辞めればいいよというわけではないですけど(笑)。
竹本・むしろ転職は当たり前。それを前提に、十分なスキルを身に付けないといけないという発想で労働における日本の風土を変えようということですね。「元リク」という言葉があります。人材輩出企業という意味で使われていますが、僕は御社にそのような可能性を感じています。つまり御社は、急成長過程で自社の産業的価値を生み出すとともに、多くの人材を育てていく社会的価値を生み出していく可能性が高いと思います。そのために僕も引き続き協力させていただきます。

福井大学生と仁愛女子短期大学生による「IT(IoT,ICT)による地域課題解決型プロジェクト」では、株式会社オールコネクトが全面的にバックアップ。産学連携で地域の課題解決に取組んだ。写真はオールコネクトの社屋を見学する学生たち。

タイ国立タマサート大学との「国際事業化可能性調査に関する共同研究」の一環として、タイ教員、学生、福井大学生がオールコネクト社を視察。(2019年1月)

企業と大学、互いに刺激し合う共同研究

竹内・今回、先生からさまざまな研究結果や他社の事例をお聞きして、その専門性の高さに驚きました。僕も他の企業様とお話する機会は多いですが、突き詰めた領域というか、企業には持ち合わせない情報や視点をいただくことができたと思っています。
竹本・ありがとうございます。でも、大学の教員は現実の社会では負けます。僕が御社と一緒に進めてきて思うのは、企業さんの取り組みも僕らの研究も同じことをやっているなと。視点が違うだけで、例えば、先程のスキルを習得すれば他社に転職できるという話でも、こちらはエンプロイアビリティという専門用語と概念だけあって実践がないんです。見方が違うだけで、基本は一緒ではないかという気はします。
竹内・面白いですね。概念とか言語化とか、そういったところが大学側で、実践が企業ということですね。
竹本・ええ、先程のエンプロイアビリティも、多分企業さんでは明文化するという発想がなかったし、僕ら大学には現場の情報がなかった。お互いにないものがうまくかみ合って今回の成果が生まれつつある気がします。
竹内・なるほど。学問側のアプローチと現場側のアプローチが合わさっていくというのは面白いですね。
竹本・多分これまでの大学教員は、そこに気づけなかった。僕は会社経営の経験があるので両方見えるけども、大学で学問だけやっていると見えてこない。それはもったいないことなので、こらからもどんどんこのような取り組みをしていきたいと思っています。お互い良い刺激になっているようですし、引き続きよろしくお願いします。
竹内・こちらこそよろしくお願いします。今後の展開が楽しみです。

ひとつの物事に対して、
大学と企業の
ふたつのアプローチ。
学問と実践の組み合わせで、
さらなる深みを