本田 安都子 先生

文学作品に込められた 移民のアイデンティティについて考える

“The squeaky wheel gets the grease.”

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これは米国のことわざで、直訳すると「ギシギシ言う車輪は、油を得る」。困ったことがあったら必ず助けを求めなさいという意味です。米国の人間社会は、人種のサラダボウルやパッチワークなどと評される多民族国家で、常識や価値観が異なるもの同士が共存する中で、自分の意見を主張することが大切といわれます。
アメリカ文学の世界では、アイデンティティがテーマになることも多く、小説などの文学作品に作者の主張が込められています。私は、米国に来た移民が異なる民族的背景を持ちながら、社会にどのように適応していったのか、文学作品を基に研究しています。

テキストが語る声を拾う

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ロシア出身のユダヤ系移民で、米国で活躍した女性作家アンジア・イージアスカ(1880頃- 1970年)の代表作に、「Bread Givers」があります。アメリカンドリームを夢見る移民女性の姿を描いた本作品を、丁寧に読み込んでいくと、登場人物の厚かましさが引っかかりました。主人公が自力でなんとか成功しようとする一方、彼女の父は周りからの援助を当たり前のこととし、まさに車輪のことわざになぞらえるならギシギシ言いっぱなしなのです。厚かましさをネガティブに描かないのはなぜかと調べていくと、作者の宗教的背景が浮かび上がりました。
一神教であるユダヤ教では、物や金、知識など全てが神のものとされ、それを持たない人に与えることは善行と教えられています。ヘブライ語で「ツェダカ(Tzedakah)」といい、贈与に関する宗教的な教えにとどまらず、コミュニティ内の不平等を是正し、安寧をもたらす規範にもなっていました。
贈与に注目して考察すると、進んで分け与える人物もいれば、移住しアメリカ人となったのだからと葛藤する人物もいて、異文化社会としてのアメリカで、自身が持つユダヤ文化と対峙する一場面として、贈与が描かれていることが分かりました。そして贈与が、民族性の表れともいえると思い至りました。
今後は、ユダヤ系以外の移民作家も研究対象に加え、米国に移住した人々が、異文化に入り込むことで生じる摩擦や心情などを分析し、文化と文化の間に生きる移民のアイデンティティについて様々な角度から考察していく予定です。

fp33_12p-4今ハマっていること★

劇場に足を運び、真っ暗な中、大画面で、雑事に邪魔されず作品の世界観にどっぷりと浸る、体験として映画を見ることが好きです。