磯 雅人先生

目指せ!鉄筋コンクリート構造物の お医者さん

安全・安心の暮らしのために

日本は地震大国です。そのため、現行の設計基準に満たない建物(既存不適格建物)、いわゆる1981年以前に設計された建物の補強が急務となっています。一般的な耐震補強は、鉄骨のブレース(斜材)を入れたり、鉄筋コンクリートの壁などを入れたりして補強をしますが、この工法は非常に大がかりで、工事期間中は建物の使用制限があるほか、粉塵や騒音などの問題が発生します。
私が考えた工法は、直接、ポリビニルアルコール(PVA)繊維が入ったモルタルを既存の柱、梁、壁に吹き付けて厚みを増したり、新たに壁を構築したりして耐震補強するものです。従来の方法に比べて、型枠の使用量が少ないため、工期が短縮され、施工スペースも少なくて済み、居ながらの補強が可能です。建物を使う人が補強によるストレスを感じることなく、これまでと変わらない生活を送ることも大切だと考え、さまざまな要望に、柔軟に応えられる補強工法を探っています。

社会のインフラを守るドクター

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長年、鉄筋コンクリート構造物を扱ってきた私が忘れることができない出来事は、2012年に山梨県の中央自動車道・笹子トンネルで起きた天井板崩落事故です。走行中の車数台が巻き込まれ、9名が命を落としました。トンネル、橋といった社会インフラの老朽化と十分な点検がなされていなかったことが浮き彫りになり、国土交通省は2014年7月以後、トンネルや長さ2m以上の橋梁などを5年おきに点検することを義務付けました。
福井県内だけでも2m以上の橋は約1万ヵ所あります。点検技術者は目視によりヒビ割れなどの異常がないかを確認、ハンマーによる「打音検査」でコンクリートの浮き、剥離を確認するなどして、その健全性を判定します。しかしながら、橋の裏側の点検は上向き作業を強いられるばかりでなく、技量により、評価に差異が生じる可能性があります。そこで私は高精度カメラ、赤外線サーモグラフィ、ハンマーによる打音装置を搭載したアーム型の点検ロボット「視る診る」をジビル設計と共同開発しました。それぞれの機器から得られるデータを解析し、損傷を定量的に判断するものです。
こうした鉄筋コンクリート構造物も人と同じで、最先端の診断装置で定期的に検査し、異常が見つかれば治さなければなりません。私たちは命を預かる医師と同様に、人々が安全、安心して暮らすための「社会インフラ・ドクター」として、最善を尽くしています。
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fp32_12p-4今ハマっていること★

テニス、ミュージカル、坂本龍馬と火野正平をこよなく愛する私です。