徳永 雄次 先生

自動で動く超小さい分子マシン

普通の分子がスーパーに

2016年10月5日、スウェーデン王立科学アカデミーはノーベル化学賞を「世界でもっとも小さいマシンを作った人物に」と発表しました。自動車、洗濯機、電子レンジなど自動制御のマシンはたくさん発明されていますが、ナノスケール(ナノは十億分の一)の世界に自動マシンを作る科学者がいるのです。

今回受賞したのは、分子で回転モーター、車輪、モノレールなどの分子機械(モレキュラーマシン)を作った科学者でした。そのうちフランスのジャン・ピエール・ソバージュ教授と米国のフレーザー・ストッダート教授の研究対象が、棒状の分子とリング状の分子が結合し、リングが軸から抜けない構造を持った「ロタキサン」(図1)と呼ばれる分子機械です。リングが棒の上をスライドすることによって、外界からの刺激でリングの止まる位置をON/OFFで切り換えることにより、ソバージュ教授らは人工筋肉の合成に成功し、またストッダート教授はコンピューターに使われている2進法の「0-1応答」の実現に成功しました。

私もこのロタキサンの基礎研究をしています。

0、1の動きだけではなく、リングを「0、1、2、3、4」の5段階で動かすことができないかと考え(図2)、酸性からアルカリ性までのpHの変化を刺激に、さらには、紫外線の吸収率を調節することで目指す5通りの動きを実現し、その動きを簡単に観測する方法を見出しました。また、光や圧力によってロタキサンが形成する機構を明らかにしました(図3)。こうしたロタキサンの構造は、DNAを合成する際にも利用されており、構造や機能をデザインすることで生命科学の分野でも新しい可能性を拓くことができるかもしれません。

(図1) ロタキサン分子スイッチ

(図1) ロタキサン分子スイッチ

(図2) リングを5段階で動かす

(図2) リングを5段階で動かす

(図3) ロタキサンが形成する機構

(図3) ロタキサンが形成する機構

超分子への挑戦

このような分子機械の研究は1つの分子の機能だけではなく、分子が持つ特性を生かしながら本来の分子を超える機能を獲得した「スーパーモレキュール(超分子)」と呼ばれる分子構造を形成する領域です。

新たに思い描いている研究は「分子ソーイング」を使った〝縫物〟です。人が針を持って波線縫いをする動きを分子で試みています。ある特異な水素結合や金属結合で制御しながら、分子が波線縫いのような動きで、超薄な〝繊維〟をナノの世界で自動的に生産できたら驚きですよね。

超分子の世界は何らかの新たな機能を作り出すだけでなく、分子の結合を制御することで見たこともないような美しい幾何学的な立体構造も作り出せます。すぐに何かの役に立たなくても、これまでにないものを作る研究はとても面白い世界ですよ。

今ハマっていること★

P16_03昭和の匂いのする映画やテレビを見ること。世の中の移り変わりの速さについていけないせいなのですかね。