生命力の源には目に見えない分子のはたらきがある
- 医学部(薬理学、腫瘍生物学) 教授
- 青木 耕史 先生
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病はどこからくるのか
大学入学当時に出合った「病気と正常は表裏一体※」という言葉に感銘を受けました。体内では、多くの組織で細胞がたえず新しく生産されて恒常性を維持していますが、その正常な仕組みが働かないと、がんのような深刻な病を引き起こします。このように、正常な細胞と表裏一体の関係にあるがん細胞の増殖についてもっと知りたくて、がんの発症メカニズムを追及している研究室に飛び込みました。
腸に固有の分子の機能を探る
ヒトの小腸や大腸では、その形態形成や生理機能を司るタンパク質として「CDX1」と「CDX2」と呼ばれるホメオボックス転写因子が働いています。この働きを発生過程で抑制すると、腸に発生すべき組織が食道になります。すなわち、腸が腸として機能するためには、「CDX1」と「CDX2」が不可欠です。
それらの機能を理解するために、大腸癌細胞で「CDX1/CDX2」が働いたときの遺伝子発現状態を網羅的に解析しました。その結果、「CDX1/CDX2」は、がん細胞の根源である「がん幹細胞」をやっつけることで、大腸癌の発生や悪性化の進展を抑えている可能性を見出しました。多くの実験から、その仮説を支持する結果も得られています。
また、「CDX1/CDX2」のタンパク質間の相互作用に注目して研究を進めたところ、飢餓状態におかれた細胞が自分自身の一部を栄養として食べる仕組み「オートファジー(自食作用)」に欠かせない酵素「ATG7」に結合することが分かりました。「CDX1/CDX2」がATG7に結合すると、オートファジーの作用で腸内環境が健康に保たれます。しかし、この機能が破たんすると、腸の粘膜に炎症がおこり、下痢や血便が続く難病「クローン病」になるのではないか、と仮説をたてて検証をすすめています。
「CDX1」と「CDX2」の2つのタンパク質が持つ特異的な機能を明らかにし、大腸癌やクローン病を治療するための分子標的薬の開発を目指しています。
創造性を育む
基礎研究の楽しさは、生命現象の背後に隠れている、いまだ見えていないメカニズムを創造することで仮説をつくり、実験で検証することにあります。どんな教科書にも載っていないオリジナルの仮説を証明できたときの感動は大きな達成感につながります。学生の皆さんにも、見えていることに捉われずに、見えないことにこそ重きをおいて、また、自力で考えることにより新たな道を切り開いて欲しいと思います。
※クロード・ベルナール著「実験医学序説」
今ハマっていること★
ランニングです。1年間で6000㎞、気が付くとマイカーの走行距離より走っていました…。