福井県商工会議所連合会会頭
川田 達男
1940(昭和15)年、福井県生まれ。1962(昭和37)年、福井精練加工(現セーレン)に入社。取締役、常務を経て、1987(昭和62)年、社長就任。2014(平成26)年より会長兼最高経営責任者。2009(平成21)年より福井県商工会議所連合会会頭。福井県経済団体連合会会長、北陸経済連合会副会長ほか公職多数。
学長
眞弓 光文
1948(昭和23)年、三重県生まれ。京都大学医学部卒業。1997(平成9)年、福井医科大学医学部教授、2003(平成15)年、統合により福井大学医学部教授。学長補佐、医学部長、理事・副学長を経て、2013( 平成25)年4月より現職。専門は小児科学、アレルギー・リウマチ・免疫学。
眞弓 文部科学省(以下「文科省」)は2012年に「大学改革実行プラン」を策定し、個々の国立大学に対して、ミッションを再定義し、それに基づく改革プランを策定・実行するよう求めています。福井大学も教育、研究、地域連携の観点から本学の強みを検証するとともに、「なぜ福井に存在しなければならないのか」「これから何をすべきか」など国立大学としてのミッションを再定義中です。
まず地域の中で本学が果たすべき役割について、会頭のお考えをお聞かせください。
川田 国立大学法人という自主独立した組織になったことによって、大学のあるべき姿が大きく変わりましたね。それまでは文科省の内部組織的な位置づけでしたが、法人化で組織運営に経営的責任が求められるようになり、各ミッションの具体的な成果を評価されることになったわけです。
そうした中で、福井県という地域が発展していくために、人材育成や産業支援の知識の拠点として、あるいは産学官の連携や特に原子力エネルギーにかかわる世界的な貢献、さらには医療面でも福井大学の役割は極めて重要だと思います。
眞弓 人材育成では語学センターを設置し、文科省の「グローバル人材育成推進事業」に採択されました。産学官連携では、県と県経済団体連合会のご協力により「ふくい産学官共同研究拠点(ふくいグリーンイノベーションセンター)」を設置しました。
原子力エネルギーについては附属国際原子力工学研究所を設置し、国内外の関係機関との共同研究を開始していますし、医療面では今年度、医学系研究科に地域総合医療学コースを新設し、地域医療に貢献できる質の高い医師の養成に取り組みます。
川田 時代の要請に応えるべく多面的かつ果敢に改革に挑戦されていますね。いずれも産業界にとってもありがたい取り組みですし、県や福井商工会議所との包括連携協定の締結も高く評価しています。
アクティブに改革を推進されている姿を見ますと、福井大学がどのように成長していくのか、5年先、10年先にどんな成果を挙げているのか、とても楽しみです。
眞弓 教育地域科学部では教職大学院という形で地域と協働して教員養成の実践教育を進めています。小中学校の現場で現職教員と教育研究を行うという特色ある取り組みは、国内外からも注目されています。
川田 福井の小中学生の学力と体力が全国トップ水準にあるのは、福井大学の教員養成力のお陰です。「福井大学方式」の成功要因をしっかり分析し、さらに進化させていく必要があるのではないでしょうか。
眞弓 教育地域科学部は、諸事情で県外の大学に進学できない優秀な人文社会科学系生徒の受け皿も担ってきました。「文系の人材育成は私大に任せるべし」という乱暴な議論もありますが、どうお考えですか。
川田 福井大学に経済学部、商学部、法学部などがないために、文系の人材が県外に流出している面は少なからずあるでしょうね。地元企業が文系の人材を求める場合、Uターン学生を当てにせざるを得ませんが、実際にUターンするのは1000人ほどです。国の考え方からすると難しいのかもしれませんが、産業界としては文系の新しい学部を設置していただきたいですね。
眞弓 約4000人の大学進学者のうち県内大学への入学者は1000人ほどですから、受け皿を拡充する必要はあるでしょうね。ただ、単に文系の新学部があればよいわけではなく、社会が求める人材をきちんと育成できるかが問われると思います。
眞弓 グローバル社会で活躍できる人材育成は重要な使命だと認識しており、質の高い語学教育に努めているわけですが、会頭からは「英語を話せるだけではグローバル人材ではない。英会話教育で事足れりでは困る」とのご指摘もいただいています。
川田 語学センターで実践的な英語教育や産業界との連携を進めておられる点は評価しており、成果を期待しています。ただ、現実の様相を踏まえると、もはや英語力だけでは通用しない時代になっています。
実際、国内だけで完結する仕事はまれですし、東京出張と同じ感覚で中国やインドに出向くようになっていますので、国内でも海外でも同じように活躍できる人材が必要です。国際的センスを培うには若い時期が最適ですので、当社でも入社してすぐに海外に派遣するようにしています。
県内だけでグローバル人材を育てるのは限界があると思います。海外に分校を設ける、海外大学と連携する、あるいは海外に進出している日本企業を活用するなど思い切った発想が必要ではないでしょうか。
眞弓 異文化の人たちを統率しながらビジネスを展開する上で有用な人材を育成するには、現地法人でのインターンシップ教育なども必要だということですね。
川田 現地に2、3年いれば言葉はなんとかなりますので、若いうちに海外の現場で経験を積む方が大切だと思います。
眞弓 グローバル企業では外国人の雇用が増えていくと思われます。日本の学生も彼らに負けない力を備える必要があるのですが、危機感が乏しいようですね。
川田 そのあたりは教育ではカバーできない部分がありますね。ハングリー精神とか目標達成意欲では、アジアの人たちに負けているように感じます。
眞弓 本学ではできるだけ多くの学生を海外、特にアジアに派遣する事業に力を入れています。アジアの人たちの熱気を肌で感じ、自分たちの立ち位置を再認識してもらいたいと願っています。
川田 大賛成です。現地の熱気を体感することはとても大事ですね。
眞弓 本学は地域医療を担う医師養成を強化する一方、高度専門医療も県内で完結できるよう重点的に強化していく方針です。
川田 高度医療は福井大学に頼るほかありませんので、研究拠点の役割を果たしていただきたいですね。地域医療でも医師の偏在、医師や看護師不足が見られますので、人材供給はもとより臨床研修医の指導、県内病院への医師派遣など福井大学の役割は重要です。どこまで応えていただけるのか、正直、期待と不安が混在しています。
また、そう遠くない将来、在宅医療や家庭医療が極めて重要になってきます。情報化もさらに進みますので、県内医療のネットワーク化をぜひ進めていただきたい。在宅・家庭医療、中小医療機関、急性期病院の役割分担がスムーズかつ効率良く行え、システマチックに連携できる体制は福井大学がリードしなければ構築できません。
眞弓 おっしゃる通り、地域の医療機関が患者さんのデータを共有することで無駄を省き、シームレスな医療を提供することが最も重要だと考えています。産業界のご支援もいただきながら、県と二人三脚でそうした体制づくりを進めてまいります。
川田 最も期待する役割であり、大きな課題として取り組んでいただきたいですね。
眞弓 ふくいグリーンイノベーションセンターを活用して、スマートエネルギーデバイス開発地域の実現を目指した文科省事業「地域イノベーション戦略支援プログラム」を推進しています。また、今年度から工学研究科博士前期課程を改組して繊維先端工学専攻を設置し、地元の基幹産業である繊維産業に対して繊維マインドを持つ高度専門人材の育成と供給を図ることにしています。
川田 地域産業にとって福井大学はかけがえのない存在です。当社も約6000人の社員の中核を担っている人材のほとんどは福井大学の卒業生が占めています。
研究開発や人材育成における福井大学と産業界の連携をさらに深めるとともに、大学側も産学官連携を強化し、共同・受託研究、奨学寄附金など外部資金の導入を積極化する必要があります。その成否で大学間の格差が広がっていくのではないでしょうか。産業界としても責任をしっかり認識して、コスト負担や奨学寄附などに前向きに取り組みたいと考えています。
眞弓 社会に貢献できる大学として改革を進めてきましたが、そのスピードを速めなければなりません。福井商工会議所との包括連携協定でも、社会が求める人材育成を強化する観点から、教育カリキュラムについてご意見をいただくことになっています。
川田 国立大学法人評価委員会において福井大学が86国立大学中7位、地方総合大学1位に評価されたのはすごいことです。新しい時代に向けて県全体をけん引し、シリコンバレーを有名にしたスタンフォード大学と同じような存在になっていただきたい。それが福井大学に対する私の夢です。
眞弓 原子力エネルギー科学がどんな新しい価値を生み、人類にどう貢献できるかを語れないと、若者たちはその道を目指しません。手塚治虫が描いたような夢のある未来の姿を提示することも大事です。学生に夢を語れる大学でありたいと思います。
川田 小学1年生が16年後に大学を卒業する時に、90%はいまの世に存在しない職業に就くといわれています。それほど社会が変わるわけですから、大学も大きな夢を描いて変わっていっていただきたい。
眞弓 世界レベルのイノベーションを福井から発信するという夢の実現に向け、先端的研究者が研究に専念できるよう学内に「研究特区」の設置も構想しています。
本日いただいたお言葉を肝に銘じて、引き続き大学改革に挑戦してまいります。